さる公益財団法人が経営する、大学の学部や大学院を終えた諸君を対象とした2年制の「少数精鋭」の教育機関がある。
そこで創設以来、「皇室研究」の講座を担当してきた。
今年は私の都合で、まず導入講義で各自に課題を割り振り、少し間をあけて準備をさせ、2日間で集中的にやることにした。
それぞれ担当者がテーマごとにレジュメをもとに発表、受講生同士で質疑応答や討議をし、最後に私がやや長めの講評、総括を行う。
それがいつものパターンだ。
私は往復5時間くらいかかるので、地元のホテルをとってもらう。
テーマは8つ。
(1)三種の神器と日本神話
(2)「天皇」の起源
(3)武家権力と天皇
(4)明治維新と「国体」意識
(5)終戦と昭和天皇
(6)お言葉・詔勅・御製
(7)君主制の国際比較
(8)憲法・皇室典範
発表用レジュメはA41枚、添付資料は制限なし。
予め小林よしのりさんの『天皇論』と『昭和天皇論』は全員の必読図書とし、テーマごとにごく基本的な参考文献は指示してある。
例えば、(1)ならー『古事記』のテキストは、最新の研究成果を盛り込み、コンパクトで行き届いた編集がしてある角川ソフィア文庫本が一番手頃で、もう少し踏み込むのなら、新潮日本古典集成とか日本思想大系のもの。
『日本書紀』は、初心者には教育社新書の現代語訳が取っつき易く、しっかりやるんだったら日本古典文学大系本が岩波文庫になっているので、それを使えばいい。
『古事記』も『日本書紀』も新しい注釈書としては小学館の新編日本古典文学全集のシリーズが出ているが、最新のものが必ずしも最良とは限らないので注意する必要がある。
神器関係の基礎的な資料集としては、『古事類苑』帝王部や『帝室制度史』第5巻など。
ーといった具合。
これらのテーマについては、率直に言って、どこの大学のどの学部を出ていても、一様にほとんど予備知識がないのが実情だ。
それだけに、各人のやる気の違いがストレートに発表の質にあらわれる。
(3)武家権力と天皇など結構、難しいテーマながら埼玉大学を出たY君は懸命に取り組み、好感を持てた。
発表しながら、まだ自分で整理しきれない部分を自覚していて、そのことが次に繋がる。
現に私のコメントで、解けなかった難題のかなりの部分が氷解したようだ。
これは、自分で真剣に調べ考えて、わからない箇所は決して誤魔化してないからだ。
誤魔化してないからこそ、腑に落ちると本当に身に付く。
(8)は、明治大学の法学部を卒業したHさんが、憲法に限定して取り組んだ。
参考論文として大原康男氏の「象徴天皇制ノート」とか、所功氏の「象徴天皇=立憲君主論」などを紹介しておいたが、学部での専門と重なるテーマとはいえ、限られた時間内で自ら設定した論点につき、全く隙のない、しかも論旨明快で説得力のある発表。
レジュメも必要な事項を過不足なく取り上げ(当たり前のようで、これが意外と出来ず、やたら不要な事項まで盛り込みながら、肝心なものが抜けていたりすることが多い)、配列も整理されていて申し分なし。
久しぶりにレベルの高い発表に触れることが出来た。
彼女の一生懸命さが伝わって、気持ちがいい。
1日目が終わったのが午後6時前。
教務主任のK君と「皇室研究」の初級編を担当しているH君と一緒に夕食のはずが、11時頃までガンガン飲んでしまった。
2人とも、この教育機関のOBで、私の教え子にあたる。
そのせいもあって、気を許して飲み過ぎてしまった。
でも翌日に支障が出なかったのは、平素からの修行の賜物、って自慢することじゃない。